「歯 科 専 門 医 と は ?」
①はじめに
皆様は、医師に「専門医」が存在することをご存じかと思います。病院や診療所の看板、またはメディアでの医師紹介を通じて、さまざまな分野の専門医について知ることができます。歯科においても「歯科専門医」が存在することをご存じでしょうか?
多くの方は、歯科が眼科や耳鼻科のように一つの専門分野であると考えているかもしれません。確かに、歯科は医療の一部ですが、医科とは異なる教育や資格が求められ、歯科医師は「歯科医師法」に基づく資格を持ち、医科と同様に、特定の専門性を持つ歯科医師(歯科専門医)も存在します。「歯科専門医」とはどのような歯科医師なのか?と疑問に思われる方もいらっしゃるでしょう。ここでは、歯科医療とはどのようなものか?そして、皆様の周囲で活躍している歯科医師ならびに歯科専門医とその認証制度について簡潔にご紹介いたします。
②歯科医療とは
歯科は「むし歯」と「歯周病(歯槽膿漏)」の治療や、「入れ歯」をつくるだけと思われている方が多いかも知れません。皆様の中で、開業されている歯科医師から紹介され、歯科大学・歯学部病院を受診したことがあれば、口腔(こうくう)外科、歯周病科、小児歯科等といった診療科名を目にしたことがあると思います。そして、「えっ、歯科にもこんな診療科が沢山あるのか?」とびっくりされた方も多いと思います。確かに、歯科は「むし歯」と「歯周病(歯槽膿漏)」、そして「入れ歯」の治療は大事で、広く行われていますが、それ以外にも多くの病気や診療分野があるのです。
既に申し上げたとおり、歯科医師は「歯科医師法」によって規定された資格です。歯科大学や大学の歯学部で歯学の正規の課程を修めた上で、歯科医師の国家試験に合格して免許を取得する必要があります。医師と歯科医師とでは勉強する内容に共通する点もあれば、異なる点もあります。共通点としては、歯科大学・歯学部においても医学部と同じように、解剖学・生理学・病理学などの基礎科目を学び、臨床科目では、歯学部も内科学や外科学、小児科学などの科目も関連医学として学びます。そして、歯学の専門性として、主に以下の科目を学びます。
- 歯を抜かずに保存するための学問(歯科保存学)
- 歯周病に関する研究と治療を担う学問(歯周病学)
- 歯を失った後、入れ歯等で噛めるようにする学問(歯科補綴学・しかほてつがく)
- お口の中にできたデキモノ(腫瘍)や生まれつきの病気(奇形)、外傷、難抜歯等の診断や治療について研究する学問(口腔外科学・こうくうげかがく)
- 子供の歯・口腔の管理や治療に関する学問(小児歯科学)
- 歯並びや顎の正常な発育を誘導する学問(矯正歯科学)
- 人工歯根(インプラント)について研究する学問(インプラント歯科学)
- 放射線による顎顔面領域の診断、治療に係る学問(歯科放射線学)
- 痛みや全身管理など、歯科の麻酔に関連した研究を行う学問(歯科麻酔学)
歯科医師は、このようにむし歯や歯肉の病気の治療に加え、冠の装着や詰め物、入れ歯の処置を行うだけでなく、口腔内や顎の疾患に対しても治療を行います。また、歯科医療の一環として、全身麻酔や治療中の全身状態の管理も担当しています。
なお、歯科医師として独立し患者の治療を行うためには、免許取得後に研修指定施設で1年以上の臨床研修を受け、歯科治療全般に関する研修を修了する必要があります。また、歯科の医療形態は医科と異なり、約85%の歯科医師が歯科診療所で活動し、地域医療の最前線で歯・口腔の健康管理を通じて国民の健康の向上に貢献しています。
③歯科の専門性について
歯科の専門性について簡潔に説明いたします。戦後、歯科は大学教育の一環として昇格し、歯科医学としての発展を遂げました。一般的に、学問が進化するにつれて、学術研究は細分化されることが避けられませんが、歯科においても新たな歯科医学が発展し、それに伴い研究や教育の現場で学問の細分化が進み、臨床の専門性も見られるようになりました。しかし、この変化が一般臨床に結びつくことはなく、歯科の専門性は研究や教育に限られ、一般の歯科医療における専門性の確立には至りませんでした。高度に発展した歯科医療を享受することは国民の権利であり、それを提供することはわれわれ歯科医師の義務です。このような観点や次項で述べる理由等から、歯科における専門性について議論が行われ、日本歯科専門医機構が設立されました。

では、歯科専門医機構が認定する「歯科専門医」とは、どのような存在なのでしょうか。「歯科専門医」という言葉から、特別な技術を持つ優れた歯科医師を想像される方もいるかもしれません。しかし、実際には、歯科の特定の分野において豊富な知識と経験を有し、患者さんからの信頼を得ている診断・治療を行う歯科医師を指します。歯科専門医は、各診療科において最新の科学的根拠に基づき、最適な診断・治療を提供することが求められ、また先進的な歯科医療に関する理解と情報提供ができることも重要です。現在、当機構が認定した広告可能な歯科専門医は約6,000名とまだ少数ですが、患者さんはご自身の症状に応じてかかりつけ歯科医と連携し、それぞれの専門性を活かした「歯科専門医」を受診し、専門的な歯科医療を受けることが可能です。
④日本歯科専門医機構(認定専門医)とは
これまで日本の歯科専門医制度は各学会等が担ってきました。たとえば、口腔外科専門医は日本口腔外科学会が、歯周病専門医は日本歯周病学会が、小児歯科専門医は日本小児歯科学会がそれぞれ独自の制度の中で養成してきました。
ところが、患者さんの目線に立てば、各専門学会等が独自に定めた要件や基準等により運用されている歯科専門医は、必ずしも歯科医療受診の判断資料としては十分ではありませんでした。つまり、①学会独自に認定された専門医の種類が数多く、同じような専門医が沢山ある、②名称や診療内容が国民にとってわかりにくい、③専門医に関する情報が少なく、患者が受診する判断材料として乏しい、④専門医の質の担保がはっきりしない、などの課題をかかえていました。
この課題を解決するため、2005年以降、日本歯科医学会を中心に専門医認定制度に向けて議論が行われておりましたが、2015年厚労省内に「歯科医療の専門性に関するWG」が設置されたことでより積極的に議論が進められました。そして、2018年学会ではない第三者機関として日本歯科専門医機構が発足し、歯科における10の基本領域(表参照)が定められ、各基本領域間で統一された新制度で歯科専門医の養成が始まりました。
現在、既存の広告可能な歯科専門医に関しても、日本歯科専門医機構による統一された認定基準に基づいて歯科専門医資格の更新が進められています。これにより、更新認定基準を満たす旧来の広告可能な歯科専門医はすべて日本歯科専門医機構認定専門医へと移行することが決定されており、国民の視点から見た専門医の質の向上がこれまで以上に図られることとなります。
⑤歯科専門医制度の概要
歯科大学及び大学歯学部を卒業し、歯科医師国家試験に合格した後、1年以上の臨床研修を修了した歯科医師が、より高い専門性を持つ資格である歯科専門医の取得を目指します。歯科専門医の育成においては、専門家による自律を基盤とし、日本歯科専門医機構が各基本領域学会の制度に対して助言や評価を行い、標準化や質の確保、検証、専門医及び研修カリキュラムの審査を実施しています。
専門医を目指す歯科医師は、定められた卒後研修(1年以上)を修了した後、自身が目指す基本領域を選定し、その専門研修施設に所属して、定められたカリキュラムに従い、指導医のもとで所定の年限(4年以上)の専門研修を行います。歯科専門研修を修了するためには、客観的な評価を受けた専修歯科医師が、機構が認定した各基本領域学会が実施する認定試験を受験し、合格した者のみが歯科専門医機構により認定された広告可能な歯科専門医を名乗ることができます。歯科専門医は原則として5年ごとに更新が必要であり、そのための基準も設けられています。
歯科専門医の育成においては、専門家による自律を基盤とし、日本歯科専門医機構が各基本領域学会の制度に対して助言や評価を行い、標準化や質の確保、検証、専門医及び研修プログラムの審査を行っています。また、皆様が国内のどの地域で診療を受けても、適切な診断と治療を受けられるよう、歯科医師の地域的な偏在を助長しないことを重視し、歯科専門医の養成において地域医療への配慮を十分に行う歯科専門医制度の構築を目指しています。
歯科専門医機構は、先にのべたように歯科における専門性の基本領域として10の領域を定めており、そのうち8つの領域について専門制度の評価と認定を行っています。
インプラント歯科専門医および総合歯科専門医(いずれも仮称)については、まだ制度構築の段階にありますが、2025年度中には制度とその運用(研修施設・専門医認定)の評価と認定が行われ、皆様にご案内できる見込みです。
何らかの医学的配慮が必要なハイリスク歯科患者、障害を持つ患者、さらに加齢に伴い口腔機能が低下した(摂食嚥下機能低下)患者さんに対して、専門性の知識を有し安全で適切な歯科医療を提供できる専門医です。
現在、当機構では各歯科専門医制度の整備を進めており、現状における最新情報をホームページに掲載しておりますので、歯科専門医の情報としてお役立ていただければ幸いです。
なお、歯科専門医に関しましてご不明な点やご意見がございましたら、下記までお寄せいただきますようお願い申し上げます。
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